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カケチュム 「○○×(かける)チュム춤」 管理人Narimorがチュムと日常の出来事を掛け合わせて綴るブログです。 kakeChum. 「○○ × (multiplied by) Chum(dance)」. This is a blog written by the concierge Narimor by multiplying Chum and daily life.

果実そのままジャム

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果実そのままジャム

思いがけずジャムの詰め合わせが届いた。さっそく朝食のトーストに乗せて食べてみる。ジャムといえばトーストに‘ぬる‘というのが一般的だが、このジャムはトーストに‘乗せる‘というほうがピッタリはまる。ごろっと果実がそのまま入っていた。砂糖をつかわずに果実を煮込んで瓶詰にしたものだとある。手のひらサイズの六角形のそのガラス瓶はそのぞれの面からそれぞれの明暗で光を反射し、食べられる前のジャムを無駄のないフォルムで存在させていた。

食べてみると、ごろっと果実の食感、そのナチュラルな風味と甘さに、新鮮な驚きが駆け巡った。こんなジャムは初体験だ。何気ない毎朝の食事風景は前例のない感覚に触れ炭酸がシュワシュワ湧き出てくるような歓喜と美味の渦に包まれ、不意打ちにあった視覚、嗅覚、味覚は砂浜に染み込む波の泡たちが奏でる音楽のように体中を響かせていた。静かな感覚たちの軽妙な覚醒は日常を少しスペシャルなものへと導いてくれた。

そこでふと思う。

これに似た瞬間に見覚えがある。感覚の記憶を辿ってみる。日常をちょっとスペシャルなものへと導いてくれるその何か。人を外の世界へ連れ出してくれるようなワクワク感。そうだ、暗転だ。あの真っ暗闇。公演開始前のあの暗転の瞬間である。ざわつく客席はこの暗転の真っ暗闇に身を晒されるのを合図に、外の世界へ誘われるべく少しばかりの緊張と集中の空気を無意識に身にまとう。そして今から目の前で繰り広げられる世界へと全身の呼吸を整える。

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暗転

その暗転の真っ暗闇から発動されるワクワクに心躍らされる。行き先は分からないが外の世界へ繋がる一人用のカプセルに飛び乗り、機械音を拾い続ける冴えた聴覚だけが頼りの暗闇の中を揺られ、徐々に割けてきたカプセルの割れ目から差し込んだ光は別世界への入り口だった、に繋がるワクワクである。

演劇であれ音楽であれダンスであれあらゆる舞台公演の始まりの合図のあの真っ暗闇は、日常から外の世界へ連れて行ってくれるちょっとスペシャルなものへと向かう旅路のようだなと思う。それはどんな演出や仕掛けもかなわない真っ暗闇の瞬間だ。無敵の暗転とでも言うべきか。だからといって旅路先の世界がどんなものかスペシャルの可否は、その世界を覗いてみないことにはわからないのもまた旅路ならではである。ともあれ、日常から外の世界へ連れ出してくれるこの暗転は、LIFEの旅路で煌めく瞬間の前の小さな光に繋がる裂け目のように思う。

果実そのまんまジャムを乗せたトーストは、私の日常の小さな裂け目となり知覚を揺らがした朝食であった。にしても、このジャムは手のひらサイズの六角瓶のである。かわいらしいものは、小さい。ということで、この朝食もあと数日で終わるようだ。スペシャルが日常となる頃にちょうどよい。