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kakeChum

カケチュム 「○○×(かける)チュム춤」 管理人Narimorがチュムと日常の出来事を掛け合わせて綴るブログです。 kakeChum. 「○○ × (multiplied by) Chum(dance)」. This is a blog written by the concierge Narimor by multiplying Chum and daily life.

雲と氷の瞬間

先日の月食時、木星土星も見ることができた。

宇宙の星たちをまじまじと観察できた初めての体験であった。

セピア色の閑散とした公園に設置されたまま放置されたシンボルのような、空へ向け発射するのを待ち構えている小型ロケットを連想させる、そんな年季が入った巨大望遠鏡で木星を観察した。その望遠鏡の真横には勾配がかなり急で階段幅が狭い鉄の移動式大階段が設置してあった。鉄の階段特有の振動を響かせ5、6段上る。おのずと手すりを持つ手は無駄に力が込めらる。いつからか高いところが恐怖になっている自分に激励もどきのスイッチを入れ、その高い位置にあるレンズに顔を近づけ覗き込む。

いざ木星へと弾む心とは裏腹に、前かがみにレンズを覗き込む身体は階段から転げ落ちぬようにとバランスをとることを優先し、つま先から髪の毛の先まで覚醒された意識を巡らせる。なので見るために開いているはずの目の前は紗幕がかかったようにおぼろであった。小型ロケット型の天体望遠鏡に寄り添う自身のフォームに違和感がなくなるまで数秒の全身チューニング後、全身でゆっくりと焦点を合わせてみる。

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Jupiter

木星だ。見える!こんなに大きな望遠鏡なのに木星はとても小さかった。木星の周りできらめく4つの衛星も見える。ガリレオが発見したとか。その日時の木星はストライプ模様をこちらに見せてくた。これは木星の早い自転により流される雲がいくすじもの横縞模様となって見えているという。また別方向には白い輪っかがかかっている土星も見ることができた。この輪っかは土星の周りを回る大小無数の氷のかけらの大群だそうだ。惑星に引き寄せられた雲と氷。雲はストライプに、氷は輪っかに変容されてその惑星そのものの模様として地球に見せてくれている。

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Saturn

地球から木星まで7億5000万km。土星まで15億km。光が進む距離は1分間に約18000万kmなので地球から木星までは40光分、土星までは80光分。すなわち私が今みている夜空の木星の輝きは40分前のものである。土星にいたっては80分前のものだ。惑星をデザインしているあの雲も氷の大群もそれぞれ40分、80分前の姿をこちらに見せてくれているという訳だ。

これは今この瞬間に同じ夜空の空間で異なる瞬間の光を私は見ているということだ。いうならば、違う瞬間ものが目の前で繰り広げられ、今同時に体験しているということになるのではないだろうか。

そこでふと思う。

踊る人とチュム、チュムと見る人、踊る人と見る人、踊られているその瞬間の同じ空間でそれぞれに違う瞬間のものを経験しているということがある。時間だけではなく、空間、踊る人、見る人それぞれに異なる世界が同時に体験される同じ瞬間が。その間隙からはみ出してきたスパークで感電したなら、全身を微弱に揺るがす振動の余韻にしばし酔える瞬間を味わえるかも知れない。また、遠い違和感の残骸たちが醸し出すほろ苦い後味の瞬間かも知れない。凝固された何かが自身を覆っている壁を傷つけながら出口を探して流れ出していくような違和感。これもまたはみ出てきた瞬間である。

同じ空間の異なる時間を見る今この瞬間。

だから肝心なのは、思う相手をいつでも腕の中に抱きしめていることだ。ぴたりと寄り添って、完全に同じ瞬間を一緒に生きていく事だと言った作家を思い出す。その作家の切なくも甘酸っぱい想いと、その言葉に出会った20代の自身のやり場のないほろ苦い記憶が今この瞬間、宇宙の光と重なる。